2011年06月23日

岡崎久彦「低レベル放射能はそれほど危険か」


産経新聞・【正論】元駐タイ大使・岡崎久彦 低レベル放射能それほど危険か 

国民に真実伝えなかった政府


米有力シンクタンク、ヘリテージ財団が、東日本大震災への日本の対応ぶりをレビューして、今後の米国への教訓とするために、報告書を発表した。

 日本国内では、原発問題をめぐって、非難、弁護相交錯して泥仕合の様相を呈しているので、評価が定まるのはもっと先になろう。その意味で、米国で早くもまとまった評価は参考になる。

 日本の対応ぶりについては、まず称賛である。「天災国日本は、『準備の文化』を示した。過去の災害の教訓を生かし、災害対策を準備してきたことが成果を生んだ。昨年9月の地震避難訓練には67万人が参加した。そして実際の地震に対して、日本国民は、素晴らしい規律と耐え忍ぶ能力とを示し、暴動や大混乱などは生じなかった」と、米国も準備の文化を育てるべきだと言っている。

 他方、日本の対処ぶりの中では情報の伝達に問題があったと指摘している。「政府が福島原発の状況につき、満足できる情報を提供できなかったので、国民の恐れと不安感を高め、世界のメディアの憶測や誤報を招いた」とし、「日本政府の対応の中で、最も問題だったのは、低レベル放射能にどの程度リスクが有るかを、有効に伝えることができなかったことであった」と指摘している。

 これについては、「混乱が生じる理由の一つには、低レベル放射能についてはいまだ多くの科学的論争があることである」と、慎重に留保しつつも、「低レベル放射能の危険は一般に考えられているものよりはるかに少ないかもしれない」「現在の基準が危険を過大視していることを示唆する科学的証拠もある」と述べている。

 そして、災害の真っただ中で、この問題の複雑さを説明するのは困難なことであろうと、再び留保しつつも、米国は将来の同様な危機に際して、低レベル放射能についての正確な情報の提供に努力すべきであると唱えている。

 ≪毒も薬になるホルミシス効果≫

 回りくどい言い方はしているが、詰めて言えば、あるレベル以下の放射能は危険でないということを、初めからはっきり国民に知らせられれば、今回の日本のような混乱は避けられるだろう、と言っているのである。

 時を同じくして、注目されるのは、2008年の米ミズーリ大学名誉教授のトーマス・D・ラッキー博士の論文である。日本には、茂木弘道氏により紹介された。

 これは、広島、長崎の被爆者8万6543人の健康状態の追跡調査の結果の学術報告である。

 まず、長く原爆症で苦しんだ人々も含めて、被爆者の両親から生まれた子供に遺伝子上の奇形児は1人も見つかっていない。

 また、低レベル放射線を浴びた母親から生まれた子供たちの方が、一般平均と比較した場合、死産、先天性異常、新生児死亡などの比率が低い。

 がんについては、平均的な被爆者の人々の白血病による死亡率は、市外の2つの町のグループの人々より低かった。約20ミリシーベルトの被曝(ひばく)線量であった7400人のグループでは、がんの死亡率の著しい低下が見られた。そして、その他の数値を挙げ、結論として、低線量放射線は日本の原爆生存者の健康に生涯にわたり寄与したことを示している、と言っている。

 さらに、日本の被爆生存者において、ほとんどの臓器がんには予想されたホルミシス効果が認められると、報告している。ホルミシス効果とは、生物に対して有害なものが微量である場合は、逆に良い効果を表すという生理的刺激効果のこと、つまり、毒を薄めると薬となるということである。

 ≪60〜100ミリシーベルトが健康に最適≫

 東京大学の稲恭宏博士によると、塩をどんぶり一杯食べれば人間は倒れるが、少量の塩がなくては生きていけない。ラッキー博士の報告によれば、がんについては、20ミリシーベルトが一番良い塩加減ということになるが、博士は他の論文では、60〜100ミリシーベルトが人間の健康にとっても最適の数値であろうと言っている。

 たしかに私の知人でも、広島の被爆者で80歳過ぎても元気な人がいて、その親類の被爆者も皆元気で長生きだという。

 そういえば、昔は皆、健康のためと言って、ラジウム温泉に入ったり、放射能が出るといわれてカルルスせんべいなるものを食べたりしたことも記憶する。

 素人考えでも、人類を含めてすべての生物は、宇宙から来る放射線を浴びている地球の中で発生し、共存しつつ進化してきたのであるから、放射線があることを前提条件として生きているのであろう。そして当然に、日光を浴びるごとにホルミシス効果の恩恵も受けてきたことは、常識として納得できることである。むしろ、放射線を全部遮断すると微生物が育たないということもあるという。

 私は専門家でも何でもない。最近の米国の評論を紹介しているだけである。ここでやめるべきであろう。これ以上を語ることは、素人として口数が多すぎる。(おかざき ひさひこ)
低レベル放射線はそれほど危険か @(岡崎久彦)正論欄平成23年6月22日産経新聞.jpg
posted by 放射線は薬。 大量は毒、小量は健康。茂木弘道 南木隆治  at 04:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月20日

ラッキー博士 電離放射線の生物学的効果

電離放射線の生物学的効果.pdf
Journal of American Physicians and Surgeons Volume 16 Number 2 Summer 2011
電離放射線の生物学的効果: 日本に贈る一視点
以下の本文に詳しい図が添付された翻訳をここで見る事が出来ます。
ここをクリック。図入りのPDFファイルが開きます。



T. D. ラッキー, PhD (有志グループ訳)
世界のメディアの大半が放射線は全て有害であると思いこんでいる。もし日本の政府が、2011年3月の地震と津波がもたらした福島原発事故への対応に当ってこうした思いこみに支配されるならば、既に苦境に喘ぐ日本経済が途方もない無用の出費に打ちのめされることになろう。
ミハイル・ゴルバチョフが遅きに失して思い知った次の教訓を日本も学ばなければいけない。「20年前にチェルノブイリで起った原子炉のメルトダウンが、恐らく5年後のソ連崩壊の真の原因であった」1。
電離放射線(以下放射線とする)にはホルミシスの性質がある。ホルミシスという概念は、メディアにも政府にも一般的に理解されていないのだが、尐量なら有益である一方大量では有害、というものである。このような効果は約40種の必須栄養素、全ての薬品、及び他の大多数の物質において生じることが知られている。慢性、急性いずれの放射線被曝にもホルメシスが見られる。核降下物の重要性の理解には、有益から有害までの全域にわたる放射線の考察を欠かすことができない。
低線量放射線の有益性を示す何千もの科学論文が発表されている2,3,4。日本は国内に服部禎男博士(元日本電力中央研究所理事)5という世界的な権威がいて指導を仰ぐことができるのだが、現実はそれと違って広島の放射線影響研究所(RERF)に頼る傾向がある。RERFは放射線の害の研究に何百万ドルもの資金を費やしているが、放射線の健康への恩恵に関しては信頼すべき情報源ではない。
放射線は生命にとって不可欠
適切な遮蔽の下に行われた塩水小エビ6、原生動物7,8、マウス及びラット9を対象とする実験から、放射線が生命にとって不可欠であることを示す説得力のある証拠が得られている。筆者自身の原生動物を使った研究、及びクージンのマウスとラットによる研究では、天然(放射性)カリウムに代えて非放射性カリウム−39を用いることにより放射線不足の状態を創出した。これらの報告は、放射線も人間にとって不可欠の物質であることを示唆している。
我々が放射線不足の状態にあるという考えは、低線量被曝が実験動物にも人間にも健康に良い刺戟を与えることを示す2,000を超える科学論文によって裏付けられている3,4。これらのデータは、世界を通じての放射線の自然レベル、3ミリシーベルト/年(mSv/y)10 p198、が真の健康のためには不十分であることを示している。例えば、我々が適量の放射線を受ければガンは稀な病気になるであろうことを示唆する研究結果がある。
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慢性(継続的)被曝
総線量率応答曲線(図1)が示すところでは、最低発ガン死亡率と最長寿命につながる最適放射線量率は約100ミリグレイ/年(mGy/y)である11。健康に良い効果と悪い効果とを分けるゼロ相当点(zero equivalent point = ZEP)は約10,000mGy/yである。ZEPを上回る被曝率においては、放射線疾患の諸症状や死をもたらす可能性がある。
この考え方を裏付ける事例が台湾の台北にある12。1982年から1984年にかけて、放射性のコバルトで汚染された鋼材が或るマンションの梁に使用された。その後約20年間、約1万人がこの高濃度の放射性環境の中で生活した。平均被曝線量は50mSv/yであった。これは最適線量である100mSv/yに近い。(新しい評価法ではSvとGyはほぼ等値)13。この建物の住民のガンによる死亡率は10万人年当り3.5に過ぎなかった。一般平均の考察からは1,000人年当り116例の死亡が予測された。完全な研究は行われていないが、慢性的な低線量率放射線の被曝はガン死亡率を低下させるように見える。この見方は、米国における屋内ラドン濃度の関数としての肺ガン死亡率によって裏付けられている。
図1.放射線の効果の範囲。放射線に対する全線量率反応曲線は放射線不足、最適放射線量、放射線毒性を示している。(ラッキー19913、p230、図9.3を修正)。縦座標は相対的健康指数、横座標は10を基数とする被曝の強度を示す。自然環境値(バックグラウンド)は約3mGy/y、ZEPは約10Gy/y(10,000mGy/y)。
急性被曝
急性放射線被曝の効果についての各種の結論は、一般的に原爆攻撃から生き残った日本
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人に関するデータに基づいている(図2)。15 RERFは広島・長崎の生存者のガン死亡率を爆心地から3−10キロ離れていた人々(「市内対照群」)のそれと比較した。これらの対照群は原爆からある程度の放射線を浴び、多くが残留放射線が高い内に爆撃された地域に立ち入った。原爆生存者120,321人における総(全原因)死亡率が490mSv未満の線量において増加することはなかった。16, p46
広島と長崎で10−19mSv被曝した生存者7,430人のガン死亡率は対照群のそれの68.5%(P <.01)であった。被曝線量200mSv未満の生存者28,423人(全生存者の69%)におけるガンによる死亡数は1,000人当り76.6であった(図2参照)。これは被曝を免れた広島の北西の村落居住者に係る相当数値、1,000人当り77、に近い。この「市外」対照群の1,000人当りガン死亡数がRERFの「市内」対照群のそれよりも大きかった ― RERFはこの比較をしようとしない ― ことに注目されたい。
200mSv超の被曝例においては、線量の増加に呼応するガン死亡率の上昇が見られた。即ち、急性放射線被曝におけるZEP値は約200mSvであった。200mSv超の被曝は放射線疾患の原因となった。
放射線被曝の効果に関する更なる証拠が、1954年3月、ビキニ環礁での水爆実験による放射性降下物を浴びた23人の若い日本人漁夫の事例から得られる。全員が重度の放射線疾患に罹った。アイゼンバッドの表12.1によると、全身被曝線量は170−590cSv(1,700−5,900mSv)であった。10 甲状腺の被曝は300−1,000cSvに達した。最大線量の被曝者は被曝の206日後に死亡した。その他の人々はガンを患うことなく20年以上生存した。
図2.累積ガン死亡率。広島、長崎の生存者について推定被曝線量に対する1,000人当りのガン死亡率を示す。横座標の上の数値は各点ごとの人数(千人単位)、即ち線量 ≤Xを被曝した人の数を示す。水平の破線はRERFの「市内(爆心地から3−10km)対照群」を表わす。約1cSvの被曝者の死亡率はRERFの対照群におけるそれより有意に低い(P <.01)。直線は広島の北西に位置する諸村の住民のガン死亡率を表わす。
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放射線被曝者のための推奨指針
上述の情報は、線量を異にする放射線の慢性又は急性被曝者の処置についての当面の指針を提供している。核事故あるいは核爆発後の推奨指針は最大多数の人々に最大の善をもたらすものである。急性放射線被曝者のための推奨指針には、通常、被曝以外の問題の考慮が含まれる。例えば心理的反応、肉体的能力不全、破片による負傷、食料・水・住居の不足など。
急性被曝者用推奨指針での主たる問題は直接被曝による外傷である。これは原爆に起因する全傷害の約5%を占める。19 推奨指針はまた、多数の体外及び体内放射性核種からの放射線被曝を含む。核爆発による全傷害の約10%がこれらの問題である。全体の80%は爆風と高熱を原因とする。これらのガイドラインの核事故の場合の効用は限定的である。
放射線推奨指針は、体外照射源からの慢性的被曝者については比較的簡単である。10 Gy/y(約1mGy/h)未満 の体外放射線被曝者は、直ちにより重度の被曝者の救護に当ってよい。2−10mGy/hを長時間にわたって浴びた人々は要観察である。(日焼けのような)皮膚の紅潮は軽度の被曝過剰の徴候である。11−100mGy/hを長時間にわたって浴びた人々は放射線疾患の恐れがあり、加療を要する。1Gy/h超だと重症の可能性が高い。10Gy/h超ならホスピスでケアを受けるべきである。
広島、長崎両市を総合したデータ17は100mSv未満の急性被曝者は負傷者や病人の救護に当らせるべきことを示している。100−200mSvの被曝者は放射線疾患の治療が必要かもしれない。200−600mSvなら即刻入院を要する。600mSv超の人にはホスピスでのケアが望ましい。核爆発の線質係数(Q)は見直しが必要である。
T. D. ラッキー博士
1941年コロラド州立大学(化学)、ウイスコンシン大学で理学修士(生化学)、ノートルダム大学助教授、准教授(946-1954)、ミズーリ大学生化学主任教授(1954-1968)、退職により名誉教授授与される。NASAのアポロ計画に協力し、地上の数百倍の宇宙放射環境内での安全性を追求する中で、適度の放射線被曝は「人体に恩恵をもたらすこと」を発見し、”放射線ホルミシス効果“と名付けて世界に発表した。


<参考>
1 Jaworowski Z Observations on the Chernobyl disaster and LNT. Dose-Response 2010;8:148-171.
2 Luckey TD. Hormesis with Ionizing Radiation. Boca Raton, Fla.: CRC Press; 1980.
3 Luckey TD. Radiation Hormesis. Boca Raton, Fla.: CRC Press; 1991.
4 Muckerheide J. Low-Level Radiation Health Effects: Compiling the Data. Needham, Mass.: Radiation Science and Health; 2003.
5 Hattori S. State of research and perspective on radiation hormesis in Japan. Am J Occup Med Toxicol 1994;3:203-217.
5
6 Eugaster J. Weltraumstrahlung. Berlin: Hans Huber; 1955.
7 Planel H, Soleilhavoup JP, Tixador R, et al. Influence on cell proliferation of background radiation or exposure to very low, chronic gamma radiation. Health Physics 1987;52:571-581.
8 Luckey TD. Ionizing radiation promotes protozoan reproduction. Radiat Res 1986; 108:215-219, 1986.
9 Kuzin AM, Natural atomic radiation and the phenomenon of life. Byulleten Eksperimental noi Biologii I Meditsiny 1997;123:364-366.
10 Eisenbud M. Environmental Radioactivity. 2nd ed. Academic Press; 1973.
11 Luckey TD. The health effects of low-dose ionizing radiation. J Am Phys Surg 2008;13:35-42.
12 Chen WL, Luan YC, Shich MC, et al. Effects of cobalt-60 exposure on health of Taiwan residents suggest new approach needed in radiation protection. Dose Response 2007;5:63-75.
13 Luckey TD. Sv has a negative Q. Health Physics News, submitted March, 2011.
14 Cohen BL Test of the linear no-threshold theory of radiation carcinogenesis for inhaled radon decay products. Health Physics 1995;68:157-174.
15 Luckey TD. Atomic bomb health benefits. Dose-Response 2008;6:369-382.
16 Sanders CL. Radiation Hormesis and the Linear-No-Threshold Assumption. Berlin: Springer; 2009.
17 Shimizu Y, Kato H, Schull WJ, Mabuchi K. Dose-response analysis among atomic-bomb survivors exposed to low-level radiation. In: Sugahara T, Sagon LA, Aoyama T. Low Dose Irradiation and Biologic Defense Mechanisms. London: Excerpta Medica; 1992: 71-74.
18 Mifune M, Sobue T, Arimoto H, et al. Cancer mortality survey in a spa area (Misasa, Japan) with a high radon background, Jpn J Can Res 1992;83:1-5.
19 Kondo S. Health Effects of Low-level Radiation. Medical Physics Publishing; 1993。
posted by 放射線は薬。 大量は毒、小量は健康。茂木弘道 南木隆治  at 12:41| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

電離放射線の生物学的効果

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